日本の企業が抱える課題の一つとして、リーダーが不足している点が挙げられます。リーダー不足により管理職がリーダーを兼任するようになれば、管理職の業務負担が増え、企業としての成長スピードも下がってしまうでしょう。
本記事では、リーダーの育成が思ったように進まない理由を見た上で、リーダー育成を成功させるために欠かせない8つのポイントをお伝えします。注意点や研修方法についても解説しますので、企業経営者や人事部担当者の方はぜひ、参考にしてください。
1. リーダー育成が難しい理由
リーダー育成が難しい主な理由としては、次の3点が挙げられます。
1.1 リーダーを志望する人材の不足
2024年6月、日本能率協会マネジメントセンターが発表した「管理職の実態に関するアンケート調査」によると、一般社員の約77.3%が管理職になりたくないと回答しました。
管理職になりたくない理由としては、「自分は管理職に向いていないから(46.6%)」でもっとも多い回答です。
逆に管理職になりたいと回答した一般社員の理由は「報酬アップ」「自分の能力アップ・成長のため」「責任ある仕事に挑戦したい」などが挙げられています。
この結果から、自身が管理職に向いていないと考えていても、報酬や能力のアップ、自己の成長などモチベーションを向上させる施策の適切な実施が重要だといえるでしょう。
1.2 育成体制の不備
リーダーが育成されない要因として、企業側の育成体制が整備されていない点も考えられます。リーダー研修が実施されていない、実施したとしても十分なカリキュラムが用意されていないなどで形だけの研修となっているケースも少なくありません。
育成体制の不備は、リーダーが育成されないだけではなく、多くの手間やコストも無駄になるリスクがあります。改善策としては、外部研修の活用が効果的です。自社にかかる手間が軽減される上、適切な研修によりリーダーの適切な育成も可能になります。
1.3 選定基準の曖昧さ
自社にとってどのようなリーダーが必要なのか、その選定基準が明確でないと、適切なリーダー育成も実現しません。まずは選定基準を明文化し、どのようなリーダーを求めているかの共通認識を持つことが重要です。
適切な基準を設定するためのガイドラインとしては、「リーダーシップ」「専門知識」「実績」「人格的資質」などの項目から求める人物像を明確にしていきます。
2. リーダー育成を成功させるための8つのポイント
リーダー育成を成功させるにはさまざまな施策が必要です。ここではリーダー育成を成功させるための施策を実施する上で重要な8つのポイントを流れに沿ってを解説します。
2.1 育成体制の整備
リーダー育成を成功させるには、まず企業側の育成体制を整備する必要があります。具体的には、育成部門の設置、担当者の選定、研修の実施などです。
リーダー研修は長期かつ継続的に行っていく必要があるため、予算の割り振りも欠かせません。また、社内だけで環境整備が難しい場合は、外部の研修サービスの活用や講師の派遣などの検討も必要です。
2.2 選定基準の明確化
企業側の育成体制を整備した後、自社が求めるリーダー候補者の選定を行います。候補者選定で重要となるのが、選定基準の明確化です。
リーダーに求められる資質は企業によっても異なります。そのため、自社として、もっとも必要な資質を明文化し、担当者によって齟齬がないようにしなくてはなりません。
一般的にリーダーに求められる「傾聴力」「観察力」「提案力」などのほか、問題解決力や洞察力、創造力など、自社が求める資質を明らかにします。
2.3 候補者の選定方法
次に行うのがリーダー候補者の選定です。具体的には、前述した候補者の選定基準をより詳細にし、一般社員との面談をした上で該当するものをピックアップします。
例えば、「傾聴力」を選定基準としている場合の項目は、周囲の意見に耳を傾け理解する力があるか、相手の意見を頭ごなしに否定せず寄り添えるかなどです。その後、面談で設定した項目に適合しているかどうかを確認し、選定します。
2.4 リーダーになるメリットの伝達
リーダー候補者となったものが、必ずしもリーダーになりたがっているとは限りません。そのため、リーダー候補になることに積極的でない社員にはリーダーになることで得られるメリットを伝えます。
自身の成長や能力アップといったことももちろん重要ではあるものの、それだけでは納得はしてもらえません。報酬アップや報奨制度導入など具体的なメリットも伝えることが重要です。
2.5 育成計画の立案
複数のリーダー候補者がいる場合、画一的な育成計画では失敗してしまうリスクが高まります。候補者それぞれ成長スピードも違えば得手不得手も異なるため、それぞれに応じた育成計画の立案が欠かせません。
例えば、研修期間を半年から1年間と余裕を持って設定し、個々のスケジュールや理解度により柔軟に対応することも重要です。また、創造力に欠ける候補者、コミュニケーションに難がある候補者など不得手な部分を強化する、逆に得意な部分を伸ばすなどのカリキュラム作成も必要になります。
2.6 効果的な研修の実施
リーダー研修では実践的で効果的な研修内容が求められます。具体的には、コミュニケーションやチームビルディング、問題解決能力の強化が欠かせません。そのためには、ケーススタディやロールプレイングなど体験型学習、実際に企業が抱える課題に取り組むプロジェクトワークなどが効果的です。
また、グループディスカッション、ワークショップ形式を活用し、参加者同士の相互学習を促進するのもよいでしょう。コミュニケーションやチームビルディング強化に効果を発揮します。
2.7 定期的なフィードバック
研修はやりっぱなしでは大きな効果も期待できません。研修の進度により定期的なフィードバックを実施し、改善を繰り返す必要があります。
フィードバックの方法としては、1on1ミーティングがおすすめです。個々の課題点を明確にして、不明点や問題点があれば都度、改善していくことで、モチベーションを落とすことなく研修を進めていけるでしょう。
2.8 方向性の見直し
育成計画は状況に応じて適切に改善していく必要があります。実際に育成計画に沿って進めていても、候補者の理解度が低いカリキュラムについては、より深くわかりやすく指導しなければなりません。逆に理解度が高いカリキュラムは研修の数を減らしても問題ないでしょう。
できるだけ効率的かつもっとも成長できる研修を実現させるには、最初の計画を守るのではなく、状況に応じて柔軟に変更、改善をすることが重要です。
3. リーダー育成における注意点
リーダー育成を成功させるには、候補者の状況を常にチェックする必要があります。特に次の2点については、注意が必要です。
3.1 プレッシャーの管理
ビジネスにおいて、適度なプレッシャーは、モチベーションや能力の向上に大きく影響を与えます。しかし、過度なプレッシャーは、自身のキャパシティを超えてしまうリスクがあり、場合によってはモチベーション低下による途中離脱の可能性も高まってしまうでしょう。
特にリーダー候補者になるような人材は、責任感が強い傾向があります。そのため、過度にプレッシャーをかけ過ぎると小さな失敗から積極性を失い、メンタルヘルスに悪影響を及ぼしてしまうかもしれません。候補者の状態を確認しつつ、適度なプレッシャーで研修を進められるよう、注意が必要です。
3.2 成功体験を積む
リーダーを育成するには多くの時間を要します。そのため、長期的な視点で研修を進めていくことが重要です。
最初から大きな仕事を任せ、仮に成功したとしても継続性がなければ意味がありません。まずは目の前の小さな課題を成功させ、少しずつ成功体験を蓄積することで、自信につながり、リーダーとしての自覚が芽生えてきます。
4. 効果的なリーダー研修の方法
自社が求めるリーダーを育成する研修を効果的に進めるための方法を解説します。
4.1 コーチング
コーチングとは、個別の指導によりコミュニケーションを深め、候補生の主体性を引き出すことを目的として行うものです。
コーチングでは、候補生に対し具体的な課題解決方法をアドバイスする必要はありません。あくまでも候補生の主体性を引き出し、自身で解決方法を見つけ出せるように仕向けるようにするのがポイントです。
講師側は、綿密なコミュニケーションを通し、あくまでも候補生が答えを見つけるためのサポートに徹するのが効果的なコーチングの手法となります。
4.2 OJT
OJTとは、On the Job Trainingの略称で、実際のビジネス現場で講師が候補生に指導を行う方法です。OJTを実践することで現場での対応力やスキルを身につけられるのが、大きなメリットとなります。
効果的なOJTプログラムを設計するポイントは、明確な目標設定をすること、まず講師がやる、次に候補生にやらせる、褒める、任せるというステップを踏むことです。
また、現場でスムーズな指導をするためには、講師側のスキルも必要になります。そのため、OJTの前に講師となる者に対し、OJTの重要性や指導方法を教える講習も欠かせません。
4.3 OFF-JT
OFF-JTとは、業務時間外に主に座学により、知識やスキルの教育を行う方法です。OJTに比べ、時間をかけてしっかりと知識やスキルを習得できるのがメリットとなります。
OFF-JTは、業務終了後に講習スタイルで行うのが一般的です。それぞれの部署から講師を選択するもしくは外部から専門の講師を呼び、カリキュラムを組んで進めていきます。
4.4 eラーニング
eラーニングとは、オンライン学習によって知識やスキルを学べる方法です。zoomやTeamsなどのビデオ会議システムを使い、リアルタイムで行う方法もあるものの、録画された講義を閲覧して学ぶのが一般的です。
eラーニングのメリットは、自分のスケジュールに合わせて繰り返し学べる点にあります。OJTやOFF-JTで得た知識やスキルを定着させる方法としても、大きな効果が期待できるでしょう。
5. まとめ
70%以上の一般社員が管理職になりたくないというアンケート結果もあるように、現在、リーダー不足は多くの企業にとって大きな課題の一つです。しかし、企業としては部署やチームをまとめるリーダーがいないと、管理職の負担が増えるため、リーダー育成はしっかりと行っていく必要があります。
リーダー育成を成功させるポイントは、自社が求めるリーダー像を明確にする、育成体制を整備する、そして候補生となる社員のモチベーションを上手く引き上げることです。特にモチベーション向上には、やりがいや自身の成長といった抽象的なものだけではなく、報酬アップや報奨制度導入など具体的なメリットも欠かせません。その上で具体的な育成計画を立て、長期的な視点で育成していくことが成功のポイントといえるでしょう。